ともだちのうた。

明星学園2019年クリスマスコンサート「ともだちのうた。」

ムジカ・プロムナードは東京都三鷹市にある明星学園において、夏と冬に明星学園をささえる会(後援会)とコンサートを共同開催し、地域のみなさまにお楽しみいただいています。2019年夏のサロンコンサートでムジカ団員による音楽ユニットほんくらぴーが披露した「ともだちのうた。」に寄せられた好評を受けて、当団代表がほんくらぴー作編曲・ピアノ担当の和田直子さんに編曲を依頼。2019年クリスマスコンサートでムジカ・プロムナードと明星学園有志合唱団による初演が行われました。今回はその「ともだちのうた。」に込められた思いやオーケストラへの編曲について、和田さんからメッセージをいただきました。

音楽療法から生まれた「ともだちのうた。」

「おはよう!」
「(頷く)」
「今日は良い天気だね」
「…(窓の外を見る)」
「元気にしてた?」
「…」

この時、彼女はどう思って何を感じていたのだろう…

気持ちというものは誰だっていつも同じではないし、その日の気分によって聴きたい音楽は違うし、歌いたい歌も違う、飽きるほどに音楽を浴びたい日もあれば全く聴きたくない時だってある。新しい音の刺激が欲しいこともあれば “いつもの音楽” が心地良いこともある。人の心はいつも動いている。本当に些細なことで動いたりする。では今目の前にいる彼女は、どんな音に心を寄せたいと思っているのか、どんな音楽でこの時間を楽しみたいと感じているのか…

これは、1対1のセッション形式で行われる音楽療法の現場の話です。クライエントは当時現役の高校生でした。彼女はとても素直ですが、知的障害があり言語コミュニケーションを図ることが困難です。しかし体を使って様々な楽器を使いその世界を表現しようとする、その様子は近くで見ているととても表情豊かなもので、何かを訴えるように打楽器を鳴らしたかと思えば静かに響きに耳を傾けていたり、こちらがそろそろ終わらせようとピアノで終止感を出すと「まだ終わらせないで!」と言うように突然私の腕を掴んで弾き続けるように訴えてみたり。そんな瞬間から生まれる音、その場だけの生きた音楽、それを2人で創り出していく空間、流れ始める時間…

そんな音楽療法の現場から生まれたのが、「ともだちのうた。」です。

彼女と言葉を交わすことは一度もありませんでしたが、セッションの時間的経過とともに心の深まりを感じ、しかしそれは何か特別な関係性にあるものではなく、親しい友だちのような、大切な何かをそっと届けてくれるような、あたたかなやさしさを感じるものでもあったのです。そんな彼女に向けて感謝の意味も込めて一つの歌として届けたいと考え、作曲し、セッションの最終日に贈った歌が「ともだちのうた。」でした。

音楽を使って人と人を繋げるのではなく
人と人とのつながりがあり、そこに音楽がある
意図的にどうにかしようと思う音ではなく
純粋な心の交流の結果生まれたものが、2人にとって自然な音であり空間であり
心の中の響きであったと感じています。

この曲に込めた思い

いつもこの歌をうたうと、彼女のことを思い出します。

離れていても 聴こえる
明日に響け 2人の この歌

離れていて会えない。でも、どこかで繋がっている。繋がっているから、頑張れる。歌うことで大切な誰かを思い出し、誰かを想うことでやさしい気持ちになる。「ともだちのうた。」がそんな歌として 歌う人、聴く人の心に届いたらと思っています。

合唱とオーケストラ編成への編曲

音楽療法の現場で歌われたこの曲は当初、ピアノと歌の弾き語りで、しかもその楽譜をクライエントに贈ったところで一つの作品としては完結する予定でした。しかし、私自身曲に対する思い入れがあったこと、また「ほんくらぴー」の音楽会で歌う機会に恵まれたことでピアノと歌+クラリネットの編成となり、その後も歌い続ける曲となりました。

そんな中、合唱とオーケストラ編成で…と瓦田さんにお声かけいただく機会があり、その規模の大きさに最初は作曲した私自身驚きを隠せないものがありましたが、何より本当に嬉しかった、その時のことは今も鮮明に記憶しています。合唱とオーケストラというのは本当に大きなエネルギーを感じるもので、これまでとは違った音の色彩感、ニュアンス、立体感、演奏者一人ひとりの息づかい…そのようなものを編曲を手がける段階から感じることとなり、これはムジカさんに演奏していただいたらきっと素晴らしいものになるだろうという期待と確信を我ながら抱き(笑)、五線に筆を走らせました。

そして、その期待と確信は現実となり、譜面に書ききれない微妙な表情やニュアンスなど、実に細かに、そして丁寧に汲み取った演奏をしていただきました。合唱練習にお邪魔した際は、有志合唱団の皆さんがより良く歌うための質問を積極的にしてくださったり、オーケストラ練習の際も表現等について話し合う場をいただいたりと、前向きな時間の中で作られていく音楽は実に生き生きとしていて、一つの作品にこれだけ心を寄せて演奏をしていただける、その音を肌で感じられる瞬間というのは作曲者としてはこの上ない喜びでしたし、休憩時間にメロディをふと口ずさんでもらえたり、終演後には「また歌いたいです!」と声をかけていただけたり…。そうして皆さんにこの歌をより身近に感じてもらえたとしたら素直に嬉しい、そんな初演の機会となりました。皆さんの演奏は本当に、あたたかかった。

今回たくさんの方々に演奏していただき、また聴いていただき、この歌が一人でも多くの人に届いたこと、心より感謝しています。ムジカ・プロムナードの瓦田さん、合唱指導の成田先生、明星学園を支える会の皆様を始め、この度お力添えくださった全ての方々に、この場をお借りしてお礼申し上げます。

和田直子

メンバーより

「ともだちのうた。」を初めて聴いた時、言葉と旋律がスッと身体に馴染んですぐに大好きな曲になりました。今回のオーケストラ・合唱メンバーの中にも、そんな気持ちになった方がいたのではないかなと思います。ひとつひとつの旋律、フレーズを丁寧に届けられたらいいなという思いで演奏しました。(大森)

アマチュアオーケストラで演奏する曲は、ほとんどが「クラシック曲」で、作曲者は亡くなっている人ばかりです。今回和田さんの作品を演奏する機会が持てたことは大変刺激的な経験になりました。「歌」は器楽曲とは比べ物にならないほどメッセージ性があり、「ともだちのうた。」からももちろん素晴らしいメッセージをいただきました。これまで1人、あるいは3人で演奏されていた曲を一気に100人ほどで演奏することになり、そのメッセージは演奏者一人一人の音や言葉からさらに数百人のお客さんへと伝わり、多くの人の胸にこれからも残っていくことでしょう。産み出した作曲家のおもいをこうしてつなげていくことが演奏者の醍醐味であり責任であるとも思います。これからも末永く歌い次いでいきたいこの曲の最初の現場に居合わせることができた幸せを噛み締めると共に、素晴らしい作品を託してくださった和田直子さんへ最大級の賛辞と感謝を贈りたいと思います。(瓦田)

「第九」など、外国語でのオケ合唱は普段から親しんで聴いている私ですが、日本語歌曲のオーケストラ編曲という曲は殆ど聞いたことがありませんでした。実際に歌ってみると、慣れ親しんだ母国語をオーケストラに乗せ、冒頭の「おはよう」一つとっても旋律とそれに重なるハーモニーが本当に表情豊かに感じられました。非常に歌っていて楽しかったです。合唱オケという貴重な機会を頂いてありがとうございました。(合唱団)

「ともだちのうた。」という作品に初めて出会った時、なんてやさしい詩なんだろうと心打たれた事を覚えています。私自身も、歌いながら元気をいただきました!詩から、演奏から、「一緒に手をつないで 歩いていこう!」とメッセージを届けていきたいと思いながら参加させていただきました。(合唱団)

和田直子

和田直子プロフィール

国立音楽院ピアノ演奏科卒業。国立音楽院認定ピアノ講師、同認定音楽療法士、社会福祉士。ピアノを齋田友紀、作曲を大曽根浩範の各氏に師事。ホルン×クラリネット×ピアノによるユニット「ほんくらぴー」のピアノ・作編曲担当。現在はピアノ指導を行いながら、ピアノ曲、室内楽曲、オーケストラ曲等の作編曲活動を行っている。

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