ムジカ・プロムナードの過去の演奏曲目にたびたび登場している「協奏曲」。 メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、ロドリーゴのアランフェス協奏曲、ショパンのピアノ協奏曲第1番、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。数え上げてみれば、意外と演奏していることに我ながら驚きました。そもそも協奏曲はどういうものなのでしょうか。今回は、そのルーツと楽しみ方についてお話しましょう。
16世紀ぐらいに教会で歌われる「モテット」と呼ばれる宗教曲があったのですが、これを演奏する際、オルガンなどの楽器を中心とした編成の演奏様式をイタリアでは「コンチェルト」と呼んでいました。そのうち、楽器と声楽が1つの旋律を共有して交互に奏でる「コンチェルタート」という様式が登場し、「協演」という意味合いが含まれるようになりました。
その後、17世紀ごろには楽器演奏の部分の重要性が増してきて、楽器だけの演奏にも「コンチェルト」という言葉が使われるようになりました。この時代のコンチェルトは即興的に和音をつけながら低音を演奏する「通奏低音」というパート(たいていチェンバロが担当)を伴う器楽曲でした。そして、声楽によるコンチェルトのことは「宗教コンチェルト」と呼び、その区別をするようになりました。
7世紀末ぐらいになると、いくつかの独奏楽器と弦楽合奏による合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)の形態が登場します。コレッリという作曲家などがその先駆けとされ、ヴィヴァルディ、ヘンデル、バッハなどが発展させていきます。そして、徐々に独奏楽器を主体とする、独奏協奏曲へと進化しました。
古典派の合奏協奏曲から独奏協奏曲へと形を変えていき、ベートーヴェンやハイドンなどの活躍したロマン派の時代になると、独奏協奏曲の形式は更に明確なものになってきます。 独奏協奏曲の特徴としては主に次のようなものがあります。
・急―緩―急の3楽章で構成されることが多い
・第1楽章ではまず、オーケストラだけで、主題を主となる調性で序奏として演奏される。
・そのあと独奏楽器が同じ主題に基づいた部分を演奏する
・変奏を繰り返したあと、独奏楽器だけで即興演奏する「カデンツァ」と呼ばれる部分が演奏される
古典派の時代によくあったのは、初演で作曲者が自ら独奏楽器を担当する、つまり自分のために書いた曲が多く見られます。古典派の作曲家にとって自分が最も活躍出来る場だったのです。しかしロマン派になると、独奏楽器の技巧性に目が行くようになり、ピアノやヴァイオリンのために書かれた協奏曲が必然的に多くなっていきました。
そして20世紀に入ると、協奏曲はどんどんと自由度を増していきます。打楽器やコントラバスなど、あまり独奏楽器として見られることのないような楽器や、ギターやサキソフォーンなど、あまりオーケストラでは使わないような楽器、日本の古楽器である笙や琵琶など各国の民族楽器、オンドマルトノやエレキ・ギターなど近代に発明された楽器など、様々なものを用いるようになります。形式も、グリーグのピアノ協奏曲のように、序奏がたった1小節ティンパニのトレモロがあるだけだったり、楽章が増えたり減ったり…自由な表現のもと、多様な協奏曲が生み出され、今日に至るのです。
協奏曲の楽しみ方として、まずは序奏で基本となる主題を聴き、そのあと満を持して登場する独奏楽器がその主題をどのように演奏するのかをワクワクしながら待ちましょう。独奏楽器が演奏し始めたら、オーケストラとどのように「協演」していくのか、表現が様々に膨らんでいく様子をじっくりと楽しんでください。そして聴きどころは、やはりカデンツァ。先ほど紹介したように、カデンツァは基本的に即興演奏されるものなので、演奏者のセンスが反映されます。
第2楽章には、ゆったりとしたテンポで美しいメロディがたくさん登場するものが多いです。独奏楽器の音色の美しさをゆったりとした気分で味わってください。
終楽章には、舞曲的な音楽を採用する作曲家が多いため、華やかな音楽であることがたいていです。ゆったりとくつろいだあとは、心が躍るようなリズムとメロディを楽しみましょう。そして、曲が終わって、拍手をしながら、とくに独奏者にはぜひ惜しみない「ブラボー!」を贈ってください。協奏曲は、非常に多彩な音楽性を持ったジャンルです。ぜひ、いろんな協奏曲を楽しんでみてください。