繊細な2枚舌「オーボエ」

繊細な2枚舌「オーボエ」

第8回演奏会で演奏された、モーツァルトの「オーボエ協奏曲」のソロ楽器、オーボエ。遠くから見ただけでは、なんだかクラリネットとの区別がつかないなんて方もいらっしゃるのでは?唇を巻きこんで、まるでストローで何かを飲んでいるかのような不思議な演奏方法。いったい、オーボエってどんな楽器なの?今回は、その「オーボエ」についてお話しましょう。

オーケストラ一番乗りの管楽器

オーボエの先祖は「ショーム」という木管楽器だと言われています。ショームは主に、軍隊用に戸外で演奏されるもので、音もサイズも大きなものでした。これを17世紀ごろ、室内楽用に改良されたのがオーボエと言われています。室内楽の世界に入ってきたこの楽器は、かつて弦楽器だけで構成されていたオーケストラの世界に、一番乗りで入ってきた管楽器でもあります。

吹奏楽器のうち、息を吹き込むことによって「リード」と呼ばれる薄いを震わせて発音する楽器が様々あります。 クラリネットやサキソフォン、ハーモニカも同じ仕組みで音を出します。クラリネットやサキソフォンはこのリードを1枚使うのに対して、オーボエは2枚が合わさったものを使用します。よって、オーボエは「ダブルリード楽器」に属しています。ちなみにこのダブルリード楽器には他にもファゴットやイングリッシュホルンなどがあります。このリードを唇で巻き込むようにしてくわえ、吹き込む息の量や唇の圧力などを調節しながら音を出します。しかし…この音を出す作業がなかなか難しい。ギネスブックにも「世界で一番難しい木管楽器」「誰にも上手に演奏できない不快な木管楽器」として掲載されるほどなんです。

なぜオーボエに合わせてチューニングをするの?

オーケストラでは、舞台上のチューニングを行う際に基準音「A(ラ)」をオーボエが出します。 俗に、一番音が安定しているからという意見を聞きますが、それは大きな間違いです。だって「世界一難しい木管楽器」なんですよ?安定させるのは本当に難しいんです。では、なぜオーボエが基準音を出すのか。それは、オーボエという楽器の仕組みに理由があります。

クラリネットやフルート、金管楽器などは、管をスライドさせて音程を調整する仕組みがあります。弦楽器は、ペグと呼ばれる部分を回せば弦を緩めたり張ったりして音程を調整することが出来ます。しかしオーボエには明確に音程調整を行う仕組みがありません。強いて言えば、リードを差し込んでいる部分を若干調節することは出来ますが、微々たるものです。だから、オーボエの音程になるべく合わせることで、全体の音程を統一するようになったのです。裏を返せば、正確な音程の「A」をいつでも出さなければならないというプレッシャーが圧し掛かる楽器でもあるのです。

オーボエ奏者の苦労

ドラマ「のだめカンタービレ」で登場するオーボエ奏者の黒木君には、その様子が何度か登場しました。 まず、オーボエ奏者は、自分でリードを削ることが多いこと。市販で出来合いのリードもありますが、自分の演奏にフィットするものを探すのがとても難しいのです。吹くときの癖もあれば、口腔内の大きさなどの個人差や、楽器本体の個体差もあり、出来合いではそれらを全て吸収することが出来ないため、気になる人は結局自分で削ることになるのです。それだけ繊細なものですから、その時最も使いやすいリードが、もし何かの拍子に突然壊れてしまったら一大事。だから、いつでも替えが利くように、なるべくベストコンディションのリードを何個も用意しなければなりません。

またリードは、水分コントロールが重要で、吹く前には水に浸してある程度やわらかくしなければなりません。しかし、やわらかくし過ぎてしまうと逆効果。 黒木君が大切なコンクール直前に、ベストコンディションのリードを水に浸しすぎてしまい、酷い演奏になったというシーンがありますね。

大活躍のオーボエ

そんな苦労がありながらも、時にはメランコリックで、時には強烈な印象を聴く人に与えてくれる楽器、オーボエ。 ソロ楽器として活躍する曲も大変多く、時には交響曲などの中でもひときわ注目を集めるときがあります。 ブラームス「交響曲第1番」、チャイコフスキー「交響曲第4番」、ベートーヴェン「交響曲第3番『英雄』」は、オーボエ奏者であり指揮者の茂木大輔さんが「オーボエ奏者のための3大交響曲」と著書で述べるほど。「のだめカンタービレ」で黒木君が演奏した曲目としても一躍有名になったモーツァルトの「オーボエ協奏曲」も、もちろん協奏曲ですからそのひとつに挙げられます。冒頭の印象的なロングトーンや、技巧的なパッセージ、伸びやかなメロディなど、モーツァルトらしさがめいっぱい散りばめられた、素敵な曲です。

裏では苦労がありながらも、美しい音を奏でるオーボエ。それはまるで、水面下では激しいバタ足をしながらも、水面上は優雅な姿を魅せる白鳥のよう。ぜひ、その白鳥のように美しいオーボエの音色に酔いしれてください。

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